斬魔大聖デモンベイン SS
『大十字家の食卓』
by Sin



 今日は月に一度の給料日。
 覇道財閥お抱えの魔導探偵として、日々頑張っている分の正当な報酬だ。
 
 当然、我が家の食卓に並ぶ物も自然と豪勢になる。
 
「うわぁ……今日はお料理いっぱいだね〜っ!」
 嬉しそうにはしゃぐリルを微笑んで見つめる俺とアル。
「月に一度の大盤振る舞いだ。また次は一ヶ月後だから、しっかり味わって食べるんだぞ」
「うんっ!」

 テーブルの上に並ぶ無数の料理にどれから手をつけて良いのか迷うリルの様子に、アルがそっと手を出していくつかの料理を小皿によそってやる。
 アルって見た目はまだまだ子供だけど、こんな所はしっかり母親なんだよな…
 
「ん? どうした、九郎? 妾の顔になにか付いておるのか?」
「あ、いや…アルもすっかり母親だな〜って思ってさ」
「な……っ、う、うつけっ、な、なにを今更……ほ、ほら、汝の皿も寄越すがよい。妾が取ってやる」
「ああ、頼むよ」
 そう言って皿を渡すと、アルは楽しげに料理を取り分ける。
 まあ、もちろんこの料理は殆ど出前だけどな。
 運良く、アルの作った料理も今回は成功だったらしい。
 最近は成功の頻度が少し上がった気がする。
 以前は成功する可能性自体が0に近かったからなぁ……
 
「今度は何を考えておる?」
「い、いや、別に……」
「どうせ、妾の作った料理は滅多に成功せぬ…等と考えていたのであろうに」
「う………っ」
「……そ、そりゃ、まぁ……妾が料理を成功する事など滅多にないのは事実ではあるのだが……なんなら、全て出前にしても……」
「それはダメだ。失敗する事が多いのは分かってるけどさ……それでも食いたいんだよ……お前の愛情料理が」
「…愛ッ!? う…うつけ…そんな恥ずかしい事……真顔で言うでない……」
「マジだから、真顔にもなるって」
「………ふふっ……本当に汝は……」
 頬を赤らめて微笑みながら、アルは俺に皿を手渡し自分の分も取り分けた。
 
「おいし〜ね〜っ! 毎日こんなお食事だったらいいのになぁ……」
「無茶を言うでない。九郎の収入でこんな生活を毎日送ったら、10日も経たぬ内に破産するぞ」
 笑いながらそう言ってリルの皿に野菜をたっぷりと載せるアル。
 
「わわわっ、ママぁ、こんなに野菜ばっかりやだよ〜」
「好き嫌いを言うでないぞ、リル。それに野菜はしっかりと取らねばならぬ」
「う〜っ」
 膨れっ面でアルを見つめるその様子がおかしくて、俺は思わず吹き出してしまった。
「それをちゃんと食べたら他のも好きなだけ食べて構わぬからな」
「ほんと?」
「うむ。嘘は言わぬ」
「………じゃあ…食べる……」
「ふふっ、良い子だ」
 そう言ってアルはリルの頭を優しく撫でてやる。
 それはやっぱり紛れもなく母親そのもの……
 
「アル」
「ん、なんだ、九郎?」
「お前はやっぱり最高の女だよ。愛してる」
「―――っ!? う、うつけっ! い、いったい何を血迷ったか!? そ、そんなことは二人きりの時に言うべき事であって、こんな娘が見ている前で言うような事では……」
 顔を真っ赤に染めて俯くアルの姿に、リルが楽しそうに笑う。
「ママ、真っ赤〜♪」
「こ、こらぁ、リルまでからかうでない!」
「あはは〜♪」
「ククッ……」
「まったく……ほ、ほら、二人とも早う食わねば妾が食うてしまうぞ!」
「だってさ、リル。アルに全部食われない内に食わないと無くなっちまうぞ〜」
「や〜ん、だめだめ〜!」
 慌てて食べ始めるリルに顔を見合わせて笑うと、俺達も食事を進めた。

 やがて、大量にあった料理も殆ど無くなり、残すはデザートのケーキだけとなったのだが……
 
「あと……1つ……」
「む……ぅ……」
「え〜っとぉ……」

 残った1つのショートケーキに、俺とアルの視線が集中している。
 張りつめた空気に、リルは戸惑いながら俺達の様子を見比べて……
 
「九郎は、もう3つ食うたであろう?」
「アルはさっきのゼリー、俺より一個多く食ったよな?」
「あ、あの……パパ? ママ?」
「こう言う時は譲るのが男というものであろう?」
「女の慎み深さってのもあるだろう?」
「あ、あぅぅぅぅ……」
 いつも仲の良い俺達といっても、食い物の事になると話は別だ。
 リルが産まれる前から続くこれは、もはや恒例行事といってもおかしくはない。
 
 だが……
 
「だめ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
 
 突然の声に驚いて振り返る俺達。
 集まった視線の先には……瞳に涙をいっぱいに浮かべたリルの姿が……
 
「あ……」
「リル……」
「パパもママも喧嘩しちゃダメなの!! みんな仲良くなのっ!!」
「あ、いや、別に喧嘩してる訳じゃ……」
「う、うむ、喧嘩という訳ではないのだぞ、リル」
「う〜〜〜〜〜っ」
「……あ……はは……参ったな……」
「………ふぅ……泣く子には勝てん……な」
 そう言うと俺達は顔を見合わせて苦笑する。
 
「心配しなくて良いよ、リル。俺達は喧嘩なんてしないから」
「ほんと……?」
「うむ。我等が仲違いする事など有り得ぬ。永劫の時をも越えて結ばれた我等、その想いが途切れる事など有りはせぬからな」
 優しくリルの頭を撫でてやりながらそう言って微笑むアル。
 
「だがどうする? 公平にジャンケンでもして決めるか?」
「それも良いけど……じゃあ、こうしよう」
 俺は近くの棚からナイフを取り出し、ショートケーキを3つに切り分け、その上に乗っていた苺は2つに。
 
「ほら、これはアルに、そしてこれはリルに」
 そう言って苺の乗ったものをそれぞれに渡すと、アルが目を丸くして驚く。
「汝……?」
「んで、俺はこれ。これで完璧だろ?」
「汝は……」
「苺くらい構わないさ、二人にやるよ。それに、そいつを3等分にするのはちょっと難しいしな」
「……そうか…それならば……」

 何を思いついたのかアルは先に苺だけを食べるとそのまま俺に抱きついて……唇を重ねてきた。
「――っ!? ア、アル?」
「わぁ……」
「ふふっ、こうすれば汝も少しは苺の味を楽しめるであろう?」
 唇を離すなりそう言って微笑むアル。
「ストロベリー・キスって訳だ」
「ああ、なかなか良いであろう?」
 間近で見つめ合って笑う俺達に、リルも嬉しそうに笑っている。
 

 今まで、飯時にだけはもめる事のあった俺達だが、どうやらこれからはその心配もしなくて済みそうだ。
 これもリルが俺達にもたらしてくれた幸せの1つなのかも知れないな……
 
「ほら、リル、そんなにクリームをいっぱいに付けて……ふふっ、しょうがないな」
「えへへ〜♪」
「そう言ってるアルも……ほら」
「あ……ん、もう、九郎……」
「口元にたっぷり付いてたぜ?」
「わざわざキスで拭わなくとも……」
「こんな美味しいシチュエーション、無駄にする事無いだろ?」
「まったく汝は……ふふっ、あははっ」
 
 楽しげに笑うアルとリルの顔を見つめながら、家族の居る幸せを感じて、俺もいつしか微笑んでいた……
 
  
 
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