斬魔大聖デモンベイン SS 『アルの憂鬱』
by Sin
「はぁ・・・」
アーカムシティーの空に溶けていく溜息。
「妾は・・どうしてしまったのだ・・・」
街中を1人歩くアルは、その問いかけを誰に言うでもなく繰り返していた。
きっかけは容易い事だったのだ。
何気なく見かけた親子連れ。
親が子を・・子が親を・・夫が妻を・・妻が夫を・・
ただ無垢な愛情で結ばれた理想的な家族・・
アルはその姿に、自分と九郎の姿を重ねていた。
だが・・
「・・成せぬのだ・・妾には・・」
ポツリと呟く言葉・・
不意に、胸の奥が苦しくなって、アルはその場に蹲ってしまう。
「妾が・・九郎をどんなに愛そうが・・九郎が・・妾をどれほど愛してくれていようが・・妾には成せぬ・・妾は魔道書・・ゆえに愛する九郎の子供を成す事は・・出来ぬのだ・・」
羨望・・
強く・・強く望む・・
裕福でなくても良い・・ただ・・愛する人との愛の結晶をこの身に宿したい・・
そう思えば思うほど、アルは自分の存在を思い知らされる。
「魔導書である妾に・・そんな望みを叶える事など出来ぬのは解っていた事ではないか・・なにを今更・・」
呟く声が途切れる。
後に残されたのは、悲しき想い。
呻く様に・・嘆く様に・・溢れる涙・・
「う・・ひっく・・・何故・・こんなにも苦しまねばならぬのだ・・ただ・・妾は九郎を愛しているだけだというのに・・妾には・・その資格すらないというのか・・?」
震える肩・・
想いは純粋で・・故に留まる所を知らない。
溢れる哀しみは魔力となって、辺りを包み込んでいく・・
その時だ。
「なに1人で黄昏れてんだよ」
振り返る。
涙に濡れ、やりどころのない想いに震えながら。
「それで、なにやってたんだ、アル?」
何気ない九郎の一言。
それがアルの中にある枷を外した。
「九郎・・済まぬ・・九郎・・許して・・くれ・・」
急にそう言って泣き出すアルに九郎は慌てた様子で肩を抱く。
「な、なんだよ、急に?」
戸惑いを隠せないまま聞いた九郎をアルは涙に濡れた瞳でじっと見つめる。
「・・妾は・・九郎を愛している・・誰よりも・・何よりも・・でも・・・」
「でも・・なんだよ?」
「成せぬ・・妾には・・成せぬ・・・っ・・」
「だから、なにが?」
「・・・汝との・・愛し合った結晶を・・妾は・・成すことが出来ぬのだ・・っ・・」
そう言うと、とうとうアルは九郎の胸に抱きついて声を上げて泣き出した。
「お、おい、アル!?」
「愛しているのだ・・汝を・・どうしようもない程に! 汝になら・・何をされても構わぬ・・汝になら・・妾の全てを捧げられる! でも・・それでも・・それ程にまで汝を愛しているというのに・・妾は・・汝の子を成すことができない・・っ・・」
脳裏に過ぎる楽しげな親子の姿。
渇望・・
果てしなきが故に、いつ届くとも解らぬ望み・・
「何故・・妾は魂を持った・・? 何故に肉の身体を持ったのだ・・九郎・・教えてくれ・・妾は・・どうすればよいのだ・・」
縋り付く様に、アルは九郎の胸にしっかりと抱きつく。
溢れた涙が九郎の胸を濡らし、吸い込まれていった。まるで全てを包み込む様に・・
そして・・
「なっ!?」
思わず驚愕の声を上げるアル。
唐突に抱きしめられ、いきなり唇を奪われたからだ。
「ん、んんっ・・く、九郎・・あ、んぅっ・・」
幾度となく奪われる。
優しく・・
激しく・・
「・・・俺は・・お前が居てくれれば・・それでいいんだよ・・」
そう言って再び唇を重ねる。
秘めた愛情をただただ込めて・・全ての温もりを伝えるかの様に
幾程の時間が流れただろう。
人気のない路地で、アルはすっかり安心しきった様子で九郎に身を預けている。
溢れた涙は全て九郎の胸に受け止められ、すっかり乾いていた。
「アル・・俺はお前が居てくれればそれでいいんだ・・子供が出来ようが出来なかろうが・・誰よりもお前を愛していることに変わりはないんだからな」
九郎の言葉に、恥ずかしげに俯くアル。
「だから・・もう迷うな・・お前を誰よりも愛するのは・・俺だけだ・・」
「・・ああ・・もう迷わない・・汝を信じ・・汝を愛し・・汝と共に生きていこう・・」
そっと唇を重ねる。
「九郎・・愛しているぞ・・」
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